25Jan

2016年5月に産声を上げた「麻布十番焼肉 KINTAN」が、10年の節目となる2026年1月25日、その歴史に幕を閉じる。
麻布十番祭りへの出店や、地元の麻布高校との交流。カルネヴァーレが掲げる「地域で一番愛されるレストランになる」というビジョンを、これほどまでに体現した店舗はなかった。閉店の理由は、定期借家契約の満了。いつだって別れは寂しく、悲しいものだ。しかし、これもビジネス。俺はプロとして、この事実を飲み込み、前を向こうとしている。
思えば10年前、俺の頭の中は「いかにしてKINTANの認知を上げるか」その一点に支配されていた。 来る日も来る日も街を歩き、マーケットを調べ、繁盛店を偵察する。そんなある日、高級外車が列をなすENEOS麻布十番の前で足が止まった。「なるほど、ここだ」。この場所に店を構えれば、感度の高い富裕層に必ず届く。そう確信した俺は、隣接するユニマットビルへの出店を即決した。
実はその前年、駒沢通り沿いにオープンした「代官山焼肉 kintan」でも、同じ戦略を仕掛けていた。ガラス張りの店内から漏れる光、閉店後もあえて絞って残す間接照明。深夜にタクシーで帰路につく遊び人たちの視線を奪うための、緻密な計算だ。KINTANの繁盛は、偶然などではない。すべては勝つべくして勝つための「必然」の積み重ねだったのだ。
しかし、最近の飲食シーンを見渡すと、そんな「仕掛け」への執着が薄れている気がしてならない。SNSさえ更新していれば客が来ると思っているのだとしたら、それは商売を甘く見すぎている。戦略もなければ、心も使っていない。一番大切なのは、お客様がどんなストーリーで店を選び、どの道を通って暖簾をくぐり、食後にどんな余韻を抱いて夜の街へ消えていくか、その動線を想像することだ。 例えば、麻布十番は駅にも商店街にも近いが、ふとした路地に暗がりがある。その「間」こそが、女性を次の店へ誘う色気になる。店のアプローチひとつが、2人の心理にどう影響するか。それを考える瞬間が、俺は最高に楽しい。 韓国の飲食店のようなエッジの効いたデザインや、魂を揺さぶるコンセプトが今の日本には足りない。「安くて旨ければデザインは何でもいい」という風潮は、経営者として、一人の男として、ひどく悲しくなる。
立地も仕掛けも決まった。次に取り掛かったのは、目の肥えた大人たちを唸らせる「空間の妄想」だ。手元にある2015年当時の資料は、俺自身が書いたものだ。 店舗コンセプトは「40歳を超えた大人が日常使い出来る、東京で最もヒップな焼肉レストラン」。参考にしたのは、ニューヨーク・ソーホーにある会員制ホテル「SOHO HOUSE」。建築雑誌や写真集を穴が開くほど見て、情報を集めてコンセプトを練り上げた。 今読み返しても、実によく練られている。
当時のコンセプトシートから、その一部を抜粋しておこう
『麻布十番で私が焼肉 kintanをやろうと思った理由。それは街のカオス性にある。 新旧ごった煮の麻布十番の焼肉店を見渡すと…ランチは地域の住民の皆さまに愛されるお店であり、夜は十番が好きな目と舌の肥えた大人たちが、女子会やお忍び合コン、会食という自分達らしいスタイルでヒップに焼肉とワインを楽しむ。そんなお店が必要とされる場所だと感じたからです。麻布十番という街は…“陸の孤島“だからこそ、来るならば目的は明確。女子会しかり、合コンしかり、自分のスタイルて夜を楽しむ。華やかでゴージャスな装いは六本木・麻布界隈に2次会でも流れてもいいヒップなスタイル。特別な場所で華やかな時間を過ごす場所。そんなレストランになりたいと考えています。
麻布十番に住む人と麻布界隈で夜を楽しむ人達。そんな両極端な人達のどちらにも末永く愛される焼肉レストランでありたい。そんな思いで私達は麻布十番でKINTANを始めます。』
実際に完成した店舗は、俺が考えていた通りの空間が見事に再現されていた。 遊び心で設けたテラス個室を、有名な投資家が気に入ってくれた。保護者会の縁で麻布高校の謝恩会が開かれるようになり、商店街の会長は昼から旨そうにビールを煽ってくれた。まさに「その街で一番愛される焼肉レストラン」を体現した店舗だった。そうそう、オープンから3年後の2019年3月、俺は念願叶ってSOHO HOUSEにステイした。あの時の感動は今でも忘れられない。
そして、この空間を完成させる最後のピースが「アート」だった。ペインターのMasashi Ozawaさんに、俺が好きな曲とイメージを伝えて描いてもらった。 人生の一曲を選べと言われたら、俺はStingの『Englishman in New York』を挙げる。恵比寿焼肉kintanの頃から、ずっとプレイリストに入っている一曲だ。曲中で繰り返される “Be yourself no matter what they say” というフレーズ。「人が何を言おうと、自分らしくあれ」。それは俺の人生の指針そのものだ。曲が転調する後半、サックス奏者Branford Marsalis(ブランフォード・マルサリス)のソロパートがある。初めて聴いた瞬間、彼の都会的でありながら物憂げなサックスの音色に取り憑かれてしまった。デヴィッド・フィンチャーが撮影したPVの退廃的なニューヨークの空気感と、あの音が完璧にフィットしていた。抑圧されたクールさ。たまらなくカッコいい。このイメージを描いて欲しいとお願いした。不思議なもので、店が閉店してもアートは一生残る。どこかの店舗か、あるいは俺たちのオフィスに飾ろうと思う。本物の想いは、こうして形を変えて残っていくんだね。
今日は1月25日。 今日、麻布十番の灯が消える。俺のこだわりと、十年の記憶が詰まった大切な場所。 今日の夜は、一人の経営者として、そしてこの場所を誰より愛した一人の男として、最高の「お別れ」をしてこようと思う。
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